【連載4】不眠について ~東洋医学的なみかた~
はじめに
不眠で悩む方は多く、現代では5人に1人、65歳以上では3人に1人が「不眠症」といわれています。
不眠症は、夜眠れないための疲労感、イライラ、集中力の低下、日中の眠気…など、
さまざまな不調を引き起こし生活の質(QOL)を低下させる、とてもつらいものです。
今回は「不眠」について、東洋医学的な観点からお話をしていきたいと思います。
「不眠」とは
不眠の原因としては、
・生活習慣(夜勤などで睡眠リズムが乱れる)
・睡眠に適さない環境(騒音、明るすぎる、暑さ・寒さ、枕や寝具が合わない)
・不安や心配事がある
・ストレス
・自律神経の乱れ
・飲食物(カフェイン・アルコール・刺激物)やタバコ
・服用している薬の影響
・痛み・かゆみ・咳などの体の症状
・身体的な病気(睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグス症候群・周期性四肢運動障害 など)
・精神的な病気(うつ病、統合失調症 など)
といったことが考えられます。
病院では、
夜の不眠症状(寝つけない、夜中に目が覚める、早い時間に目が覚めてしまう)にくわえ、
日中の疲労感などの症状がみられ、
少なくとも週に3日以上の症状が1ヵ月以上(※)続く場合に「不眠障害」と診断されます。
(※「3ヵ月」以上とする場合もあります)
東洋医学で考える「不眠」
続いて「不眠」について、東洋医学的な考え方の例をご紹介します。
(※鍼灸の具体的な理論や施術は、流派や先生によって多様性があります。
ここでは、東洋医学のなかの「中医学」という学問体系における考え方をご紹介します。)
不眠症状に対して鍼灸施術を行う場合、
まず問診時に、患者さんに不眠の発症に影響していそうなこと、
不眠以外にも出ている症状などについてお聴きします。
また、もともとの体質や普段の生活習慣が大きく関係していることも考えられますので、
その点についてもうかがいます。
問診と、お体の状態を確認したあと、
次のような傾向に分類して、その方にあわせた施術方法を考えていきます。
不眠の種類
① ストレスによるもの
② 目の使い過ぎや貧血傾向などによるもの
③ 過労や加齢によるもの
④ 胃腸の弱りによるもの
⑤ 食生活の乱れによるもの
⑥ 消化不良によるもの
① ストレスによる不眠
・東洋医学でいう「肝」の働きが滞った状態
・「肝」の働きが滞ることにより、自律神経が乱れ、精神状態が落ち着かなくなり眠れなくなります
・長期間にわたる悩み、怒り、感情を抑えこむことなどにより、「肝」の働きが滞ります
・ケガや病気による痛みなどで眠れない場合もここに分類されます
目の充血、肩こり、オナカが張る など
② 目の使い過ぎや貧血傾向などによる不眠
・東洋医学でいう「血(けつ)」が不足している状態
・「血」が不足すると、気持ちがモヤモヤしたり夜に目が冴えてしまったりして眠れなくなります
・目の使い過ぎは「血」を多く消耗します
・貧血傾向の方は「血」が不足しやすいです
肋骨のあたりが張っていて押さえると痛い、
ため息がでる、手足や胸のあたりがほてる、
めまい、のぼせ、頭痛、月経不順 など
③ 過労や加齢による不眠
・カラダの中のエンジン(熱-陽)と、冷却システム(冷-陰)のバランスが崩れた状態
・就寝時に適切にカラダとココロの熱を冷ますことができないので、精神状態が落ち着かなくなり眠れなくなります
・過労や加齢によりカラダとココロの「陰陽」のバランスが崩れやすくなります
腰痛、膝痛、手足や胸のあたりがほてる、のどが渇く など
④ 胃腸の弱りによる不眠
・東洋医学でいう「脾」の働きが低下し、カラダとココロに栄養が行き届かなくなった状態
・カラダとココロに栄養が行き渡らないと、精神状態が安定せず眠れなくなります
・思い悩むこと、疲労、加齢、胃腸に負担のかかる食事、などにより「脾」の働きが弱ります
・女性では、月経の回数や出血が多い・出産などでも「脾」が弱ることがあります
体がだるく気力がでない、精神疲労、
ウツ傾向、下痢しやすい など
⑤ 食生活の乱れによる不眠
・カラダのなかに、東洋医学でいう「湿」が溜まった状態
・「湿」が溜まると「気」の流れが悪くなり熱を生じるため、精神状態が落ち着かず眠れなくなります
・油っぽいもの、甘いもの、味の濃いもの、乳製品、アルコールなどを摂り過ぎると「湿」が溜まりやすくなります
・食べ過ぎによっても「湿」が溜まりやすくなります
頭が重い、口臭が強い、口が粘る、湿度が高いと悪化する など
⑥ 消化不良による不眠
・東洋医学でいう「胃」の不調により、「気」が上に昇っている状態
・「気」が上がったままでいると、気持ちが高ぶって眠れなくなります
・胃がん・胃摘出などの慢性的な胃腸の不調により、消化不良を起こしている状態
・食べ過ぎや就寝前の食事でも、一時的に不眠が起こります
吐き気がする、ゲップが出やすい、下痢または便秘 など
※いくつかのタイプが混在する場合もあります
タイプ別 セルフケア
① ストレスによる不眠
・好きなことをして気分転換をする
・運動をする
・ストレッチなどをして小まめにカラダを動かす
・「気」の巡りを良くする食材や、余分な熱を抜いてくれる食材を選ぶ
春菊、セロリ、トマト、カニ など
② 目の使い過ぎや貧血傾向などによる不眠
・スマホやパソコンを使う時間をできるだけ減らす
・鉄分を摂る
・「血」を補う食材を選ぶ
豚肉、ブリ、カツオ、プルーン、ブルーベリー など
③ 過労や加齢による不眠
・意識的にココロとカラダを休める
(仕事から離れる時間をつくる、予定を詰め過ぎない など)
・サウナや入浴、運動などで大汗をかかないようにする(じんわり汗ばむ程度であればOK)
・「陰」を養う食材や、余分な熱を抜いてくれる食材を選ぶ
キュウリ、白ごま、クコの実、ハスの実 など
④ 胃腸の弱りによる不眠
・胃腸に負担をかけない食べ方をする
(消化によいものを選ぶ、よく噛んで食べる、食べ過ぎない)
・悩み過ぎないよう気分転換をする
・ウォーキングをする
・「脾」を元気にする食材、「気」を補ってくれる食材を選ぶ
⑤ 食生活の乱れによる不眠
・油っぽいもの、甘いもの、味の濃いもの、乳製品、アルコールを控えめにする
・食べ過ぎない
・カラダに溜まった「湿」を出してくれる食材を選ぶ
⑥ 消化不良による不眠
・よく噛んで食べる
・消化に良いものを選ぶ
・消化を助けてくれる食材(生の大根・キャベツ・リンゴなど消化酵素が豊富なもの、発酵食品など)を組み合わせる
・「気」を下ろしてくれる食材を選ぶ
カブ、ラッキョウ、リンゴ など
<参考に>
連載②〈“うつ”について~東洋医学的なみかた~〉
「9.眠りのためにできること」でも、
セルフケア法や気をつけると良いことを紹介しています。
おわりに
不眠症はお薬を使って治療されますが、
「なぜ眠れないのか?」という原因を探ることができればセルフケアもできます。
当院の患者さんでも不眠を訴える方はいらっしゃいますが、
「鍼灸を受けた日の夜はよく眠れる」とおっしゃる方が多いです。
人によって原因は様々ですので、
おひとりのおひとりのお話をうかがいながら、一緒に改善策を考えていきます。
不眠が続くと、だんだん「眠れないこと」自体がプレッシャーとなってしまい、
悪循環に陥ってしまうのもつらいところです。
また、不眠はカラダやココロに更なる不調を招く要因にもなりかねません。
おひとりで悩まれているようでしたら、お近くの鍼灸師やセラピストに相談されてみてはいかがでしょうか。
<参考サイト>
厚生労働省「e-ヘルスネット」