【連載8】東洋医学で考える「月経の不調」について
はじめに
月経痛や月経前の情緒不安定などの、
月経に伴うカラダとココロの不調を感じている人は、
20代で80%以上、30代で70%以上とも言われています。
女性が初めての月経(生理)を迎える平均年齢は12~15歳、
月経が来なくなる閉経の平均年齢は50~51歳、
と言われています。
ということは、
女性は一生のうち、40年近い年月を月経とともに過ごすことになります。
わずらわしいと感じることも多く、
人によっては不調により日常生活に支障をきたすこともある月経ですが、
このコラムでは、上手に月経と付き合っていく方法を考えていきたいと思います。
月経(生理)について
女性の月経はホルモンの変化によって起こりますが、
それに伴いカラダとココロにも様々な変化が起こりやすくなります。
特に不調を感じない人もいる一方で、
お腹や腰が痛くなったり、むくみがひどくなったり、食欲が増したり、気持ちが落ち込んだり、イライラしやすくなったり、
人によっては寝込むほどの体調不良を起こす場合もあります。
月経には個人差がありますが、正常な月経のめやすがあります。
〈正常な月経のめやす〉
・月経の周期(前回の月経開始日~次の月経開始前日までの日数)
→25~38日
・月経の日数(出血のある日数)
→3~7日
・月経の量(月経期間中の出血量)
→20~140ml
・月経時のカラダとココロの変化
→腰のだるさ、下腹部の張り、情緒の変化などがあっても“軽度”
月経の周期が早すぎたり遅すぎたり、
月経の日数が短すぎたり長すぎたり、
月経の量が少なすぎたり多すぎたり、
カラダとココロの不調が重い場合は、ホルモンバランスの乱れや疾患の心配もあります。
特に30代以上は婦人科系の疾患が増えてきますので、
定期的に婦人科を受診し検査をしておくと安心です。
なお、月経が始まってから2~3年の思春期や、閉経を迎える前の40代~50代半ばは、
疾患などがなければ周期・日数・量がめやすどおりではないこともあります。
月経前・月経中の不調(PMS・PMDD・月経困難症)
①月経前の不調
月経前症候群(PMS)
・月経のはじまる3~10日前から起こるカラダとココロの不調
・月経が始まると治まっていく
<症状>
・カラダの不調
(胸が張る、お腹が張る、頭痛、むくみ、便秘、下痢、食欲が増す、強い眠気 など)
・ココロの不調
(イライラ、怒りっぽくなる、落ち込みやすい など)
月経前不快気分障害(PMDD)
・月経のはじまる3~10日前から起こるカラダとココロの不調で特にココロの不調が強くあらわれ、生活に支障があるもの
・月経が始まると治まっていく
<症状>
・カラダの不調
(胸が張る、お腹が張る、頭痛、むくみ、不眠 など)
・“強い”ココロの不調
(イライラ、怒りっぽくなる、落ち込みやすい、不安、緊張 など)
②月経前~月経中の不調
月経困難症
・月経が始まる直前または始まるとともに起こるカラダとココロの不調
・症状が強く、生活に支障があるもの
・月経が終わるころに治まっていく
<症状>
・カラダの不調
(下腹部痛、腰痛、お腹が張る、吐き気、頭痛 など)
・ココロの不調
(イライラ、怒りっぽくなる、落ち込みやすい など)
月経困難症には、
原因となる疾患が隠れている場合(器質性月経困難症)と
そうでないもの(機能性月経困難症)があります。
子宮内膜症・子宮筋腫・子宮腺筋症などがある場合には(器質性月経困難症)、
原因となる病気の治療も必要です。
東洋医学で考える月経の不調とセルフケア
東洋医学では、
気血(※)といった生理物質が足りているか滞っていないか、
冷えていたり熱がこもっていたりしていないか、
臓腑という生理機能に不調がないか…
といったことを考えながら、不調の原因を探っていきます。
※〈東洋医学の気・血とは〉
気…カラダのあらゆる働きのもととなるエネルギーのようなもの
血…血液のようにカラダに栄養を与える液体成分
下記にいくつかの例を紹介いたします。
気の滞りタイプ
ストレスにより症状が悪化しやすいタイプです。
長時間同じ姿勢が続くデスクワークや運動不足などでも、気の流れが悪くなり不調が出やすくなります。
<特徴>
腹痛、腰痛、頭痛、肩が凝りやすい、胸やお腹が張る、
イライラ、月経前~前半に症状が出やすい、月経周期が不安定
<セルフケア>
・好きなことをして気分転換をする
・ウォーキングやストレッチ、ヨガなどをしてカラダを動かす
・深呼吸をする
・月経前・月経中は意識的にリラックスできる時間をつくる、スケジュールを詰め込み過ぎないようにするなどを心がける
<オススメ食材>
レモン・ミカンなどの柑橘類
パセリ・セロリ・パクチーなどの香味野菜
イカ、しじみ、ミント、ジャスミンティー
気の不足タイプ
虚弱体質、過労、加齢などにより、カラダを動かす気が不足し不調が出るタイプです。
<特徴>
腹痛、腰痛、頭痛、疲れやすい、倦怠感、食欲がない、
階段をのぼると息切れがする、落ち込みやすい など
<セルフケア>
・意識的に休養をとる
・夜中に睡眠をしっかりとる(なるべく0時までには寝られると良いです)
・滋養のある食事をする
<オススメ食材>
お米などの穀類
サツマイモ・山芋などのイモ類
カボチャ、キノコ類、豆類、ウナギ、青魚、豚肉、ナツメ など
血の滞りタイプ
冷え、疲労、ストレス、同じ姿勢が続くことなどにより、血流が悪くなり不調が出やすくなるタイプです。
<特徴>
腹痛、腰痛、頭痛、鋭い痛み、肩こり、
イライラ、シミ・そばかすなどができやすい、顔色がくすんでいる、
舌の裏の血管が青黒い、月経血の色が暗紅色・レバー状の塊が出る など
<セルフケア>
・好きなことをしてストレス発散をする
・カラダを動かす
・冷え対策をして血行を良くする
・シャワーだけで済まさず、湯船に浸かる
<オススメ食材>
タマネギ、ニラ、チンゲンサイ、黒キクラゲ、
ウナギ、イワシなどの青魚 など
血の不足タイプ
虚弱体質、貧血傾向、目の使い過ぎ、筋肉をよく使う、疲労、寝不足、栄養不足などにより、
カラダに必要な栄養が行き届かず、不調が出るタイプ。
<特徴>
腹痛、腰痛、頭痛、イライラ、落ち込みやすい、冷えやすい、
足がつりやすい、目が疲れやすい、不眠、
爪の色が白かったり反り返ったりしている、
アメや氷を嚙みたくなる、月経周期が長い、月経血の量が少ない など
<セルフケア>
・夜に睡眠をとる(できれば0時までに寝られると良いです)
・血を養う食材をとる
・目を休める
<オススメ食材>
プルーン、ブルーベリー、ホウレンソウ、コマツナ、ニンジン、
ヒジキ、黒豆、黒ゴマ、黒きくらげ、レバー、赤みの魚、牛肉 など
熱こもりタイプ
暑がりの体質、暑い環境、ストレス、食事の不摂生などにより
体内に熱がこもって発散しきれず、様々な不調を起こすタイプ。
<特徴>
腹痛、頭痛、イライラ、暑がり、食欲旺盛、目の充血、
不眠、便秘、月経前から前半に症状がでやすい、月経期間が短い、月経血が多い など
<セルフケア>
・汗をかいて熱を発散する
・気分転換をしてストレスを発散する
・熱のこもりやすい食事を控える(辛いもの、油っぽいもの、味の濃いもの、アルコールなどは控えめに)
<オススメ食材>
キュウリ・トマト・ナス・ゴーヤ・ズッキーニ・スイカなどの夏野菜、
梨、柿、あさり、しじみ、わかめ、そば など
冷えタイプ
冬の寒さや夏の冷房、冷たいものの飲食などでカラダが冷えることにより、不調が出やすいタイプです。
また、虚弱体質や冷え症などのために、カラダの中から温めるチカラが低下している場合もあります。
<特徴>
腹痛、腰痛、強い痛み、手足の冷え、顔色が青白い、
冷えると症状が悪化する、月経血に塊が混ざる、月経周期が長い など
<セルフケア>
・冷えやすい服装を控える(特に、首・お腹・腰・足首を冷やさないように注意)
・夏場でも冷房で冷えない対策をする(膝かけ・レッグウォーマー・ストールなどを活用する)
・月経痛がひどいときは、お腹・腰・仙骨部(おしりの割れ目の上)をカイロなどで温める
・冷たいものの飲食を控える
・カラダを温める食材をとる
・シャワーだけで済まさず、湯船に浸かる
・筋肉をつけて基礎代謝をあげる
<オススメ食材>
ショウガ、ネギ、ニラ、シナモン、
ニンジンなどの根菜類、
味噌、キムチ、梅干し、鮭、ラム肉、牛肉 など
冷えのぼせタイプ
寝不足や過労、加齢などによりカラダの中の冷ます作用と温める作用のバランスが崩れているタイプ。
長年のストレスや目や筋肉の使い過ぎも誘因になります。
<特徴>
腰痛、膝痛、頭痛、肩こり、イライラ、目の渇き、
冷えのぼせ、手足のほてり、不眠、月経周期が長い、月経血が少ない など
<セルフケア>
・夜に睡眠をとる(できれば0時までに寝られると良いです)
・汗をかき過ぎないようにする(じんわり汗ばむくらいはOK、サウナやホットヨガで大汗をかくとかえって体調が悪くなることがあります)
・足元が冷えてのぼせる場合は、足元を冷やさないようにする
・目を休める
・必要以上のPC・スマホの使用は控える
<オススメ食材>
オクラ・ヤマイモなどのネバネバ食材、
キクラゲ、プルーン、黒ゴマ、青魚、梨、ナッツ類 など
胃腸の弱りタイプ
虚弱体質、過労、精神疲労、食事の不摂生などで、胃腸が弱ることによりカラダに十分な栄養を行き渡らせることができなくなり不調が出やすいタイプ。
<特徴>
腹痛、腰痛、頭痛、倦怠感、疲れやすい、
雨の降る前や雨の日に体調を崩しやすい、
食後眠くなりやすい、むくみ、
軟便、下痢と便秘をくりかえす、思い悩みやすい など
<セルフケア>
・しっかり休養をとる
・よく噛んで食べる
・暴飲暴食を避け、腹八分にする
・消化に良いものを食べる
・思い悩みすぎない
・好きなことをしてストレス発散をする(ストレスが溜まると自律神経の働きに影響が出て、胃腸の働きが低下しやすくなります)
・ウォーキングなどで手足を動かす(手足を動かすことにより、血行が良くなり胃腸の働きを助けてくれます)
<オススメ食材>
おかゆ、
レモン・ミカンなどの柑橘類、
ジャガイモ・サツマイモなどのイモ類、
キノコ類、
キャベツ、タマネギ、ナツメ、鶏肉 など
::::::::::::::
これ以外にも様々な状態があり、複数のタイプが合わさっている場合も多いです。
原因や症状は一様ではありませんので、
鍼灸では、患者さんのお話を聴いて状態を確認したうえで、
その方に合わせた施術を行っていきます。
定期的に施術を受けることにより
月経痛や月経前の不調が和らいだり、月経周期や月経血の量が安定してきたりすることも多いです。
また、月経前や月経中に不調が出やすい人は、
肩こり・片頭痛・イライラしやすい・胃腸の調子が悪い…など、
普段からなんらかの不調を抱えていることが多いですので、
その症状に対しても施術していきます。
逆に、肩こりや腰痛などの症状で鍼灸を受けに来られた方も、
お話を聴いてみると月経に関してなんらかの不調がある場合も多いです。
鍼灸は、
月経に関する不調のケアとともに日頃の体調管理にもなりますので、
女性の心強い味方になってくれます。
※ 子宮筋腫・子宮内膜症などの疾患がある場合は、病院での検査や治療と併用して鍼灸施術を行います。
※ 症状のみかた・施術の仕方は鍼灸師によって、流派などによって多様性があります。
おわりに
女性のカラダとココロはとてもデリケートです。
ストレスや疲労、食事や生活習慣、環境の変化…などにより
ホルモンバランスや自律神経が乱れ、月経の不調として現れることも珍しくありません。
テスト期間中に月経が遅れる、仕事が忙しくて月経周期が乱れる、冬になると月経痛が重くなる…といったことも多々あります。
月経は女性のカラダとココロに大きく影響します。
しかしながら、月経はカラダとココロのバロメーターでもあります。
月経時に感じる不調から、
「今月は休養をとれていなかったな、」とか、
「ストレスを溜めこんでしまっているな」
「カラダを冷やしてしまったかも」
「食事をもっと気をつけよう」…
といった改善点をみつけることもできます。
また、月経によるカラダとココロの変化は自然な生理現象ですので、
月経のリズムに合わせて、
・月経前はスケジュールを詰め過ぎないようにしよう
・この時期はとくに人に接するときに気をつけよう
・情緒不安定になってしまう自分を責めすぎないようにしよう
・次の月経時期を楽に過ごせるように食事や生活を変えてみよう
…といった準備もできます。
月経は女性の一生にとって大切な生理現象です。
カラダとココロの声を聴いて、上手に付き合っていきましょう。
参考:
矢野忠.『レディース鍼灸-ライフサイクルに応じた女性のヘルスケア』.医歯薬出版株式会社.2013年.
医療情報科学研究所.『病気がみえるvol.9 婦人科・乳腺外科』第4版.2019年.
厚生労働省研究班 監修.「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」.
OMRON.「月経・生理 Q&A | オムロン式美人 (omron.co.jp)」
あすか製薬株式会社.「女性のための健康ラボ Mint+」