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知的発達症(知的能力障害)とは?

知的発達症(知的能力障害)とは、以前の「知的障害」のことです。

①知的機能の発達の遅れ
②社会性など適応機能の遅れ
③18歳未満の発症

この3つの条件がそろったときに診断される障害です。

知的発達症の診断方法

DSM-5(アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル)を参考にまとめてみました。
以下の3つの基準を満たす場合に、診断されます。

①臨床的評価および知能検査をすると「知的機能の遅れ」がある。
②個人の自立や社会的責任において適応機能の遅れがあり、継続的な支援がなければ、適応上の遅れは家庭、学校、職場、および地域社会といった多岐にわたる環境で制限されてしまう。
③知的および適応の遅れは、発達期(18歳未満)の間に発症する。

このように、知能検査の数値だけではなく、
「社会性などの適応機能の困難さ」
同時に満たした場合に、知的発達症と診察されます。

ほとんどの場合が下記の検査方法で知的発達症と診断されています。

田中ビネー式検査
WISC-Ⅳなどの知能検査
K式発達検査などの知能指数(IQ)・発達指数(DQ)

令和2年度から診療報酬改定により、
「Vineland-Ⅱ適応行動尺度」(対象年齢:0歳から92歳)
が医療現場で使用できることになりました。
世界的に使用されている尺度ですので、医療や福祉などの現場でも使用されることが増えてくるかと思います。

改定間もない時には、
もしかしたら医療関係の方も使用できるようになったことをご存知でない場合もあるかもしれません。
研修を受けた方のみ使用できるようなので、全国的に誰でも検査できるようになるには、もう少し時間がかかるかもしれません。

知的発達症の検査方法

具体的な検査内容は以下の通りです。

Vineland-Ⅱ(ヴァインランド) 適応行動尺度

世界的によく使われている標準化された適応行動の評価尺度で検査する方法です。

  • 0歳から92歳の幅広い年齢帯で使用可能。
  • 同年齢の一般の人の適応行動をもとに,発達障害や知的障害,あるいは精神障害の人たちの適応行動の水準を客観的に数値化できる。
  • 保護者(や関係者)からの面接を通じて、子どもの適応(=実生活の中でどれだけうまくやれているのか)のレベルを明らかにできる。
  • 面接も子どもの日常についての自然な質問を通じて進められる。
  • 「コミュニケーション」「日常生活スキル」「社会性」「運動」の4領域がわかる。

この検査は医療分野だけではなく,
教育や福祉分野の個別支援計画の立案や現状の支援程度評価にも使用しやすいアセスメントツールです。

<検査でわかる、4つの適応行動と不適応行動>
①コミュニケーション : 受容言語/表出言語/読み書き
②日常生活スキル:   身辺自立/家事/地域生活
③社会性:       対人関係/遊びと余暇/コーピングスキル
④運動スキル:     粗大運動/微細運動
⑤不適応行動 :      不適応行動指標/不適応行動重要事

<引用:日本文化科学社 https://www.nichibun.co.jp/kensa/detail/vineland2

田中ビネー式検査

対象年齢は、2歳から成人までです。
各年齢の子どもたちを観察し、年齢に応じた問題を作ることによってその子どもの発達程度を知ることができる検査です。
『年齢尺度』を一つの指標とし、具体的にどの項目ができていない、できている、という判断を明確に表せる検査方法になります。

WISC-Ⅳ(ウィスク)

対象年齢は、5歳0か月から16歳11か月までです。
精神年齢は算出されず、偏差IQが算出される検査です。
その偏差IQも、下記の4つの指標も平均が100になるように作られています。
このことによって、平均の100を基準にしてその子どもの得手、不得手を把握することができます。
この数値を折れ線グラフにしたときに、「線の凸凹が激しいほど困り感が強い」など様々な読み取り方ができるので、臨床心理士の解釈も重要になってきます。

①言語理解指標
②知覚推理指標
③ワーキングメモリ指標
④処理速度指標

K式発達検査

対象年齢は、0歳から成人までです。
知的能力を「認知処理過程」と「知識・技能の習得の程度」の両方を参考に分析する検査です。
このことから、子どもの得意とする知的活動は何かを総合的に見つめることができ、教育上のサポートの基盤につなげられます。

知的発達症の判定基準(軽度〜最重度)

厚生労働省による定義では、下記の表のように、知的障害の有無や障害の程度は2つの基準で判断されます。

程度の判定には、日常生活に適応する能力がどれだけあるかが優先されます。
例えば、IQ(DQ)は以下の表におけるⅢの区分でも、生活能力が高ければ障害の程度は軽度と判定されます。

「軽度」の特徴

身の回りのことを行うことに支障がない場合が多く
家事や子育て、金銭管理、健康管理上や法的な決断は支援があればうまくできることが多いようです。

《苦手なこと》
暗算やおつりの計算といった金銭管理
抽象的な思考や文章の読み書き
計画を立てる
優先順位をつける
言葉の使い方

「中度」の特徴  

適切な支援や教育によって、身の回りのことや家事ができるようになる人が多いようです。
支援があれば、職種や環境によっては自立して仕事をすることも可能であるとされています。

《苦手なこと》
学習理解。(成人でも、小学校程度の水準までの理解にとどまる。)
複雑な社会的な判断や意思決定。
コミュニケーション能力に制限があり、暗黙の了解とされるような事柄の理解。 

「重度」の特徴

生涯を通して、食事や身支度、入浴など生活上の広範囲にわたる行為において支援が必要であることが多いようです。
コミュニケーションにおいては「今、この場」で起きていること、現在進行形の自省による単語や句を使っての簡単な会話のみ可能です。

《苦手なこと》
書かれた言葉や数量、時間や金銭などの概念を理解する。

「最重度」の特徴

日常生活において、他者からの指示や援助を必要とすることが多くなります。
身振りや絵カードなどのコミュニケーション手段を使っての表出や、当事者を理解した家族や支援者による当事者への読み取りや代弁によって、他人と意思疎通を行うことができます。

《苦手なこと》
会話や身振りを使ったコミュニケーション(ただし、非常に限られた範囲であれば理解できることが多い)

知的発達症と発達障害(神経発達症)

発達障害者支援法は、発達障害のある人の早期発見と支援を目的として2004年に施行されました。
その法律では、発達障害には「知的障害(知的発達症)がふくまれない」とされています。
しかし、知的障害も発達の遅れであり、発達障害のひとつといます。
つまり、知的障害とその他の発達障害においては、明確な線引きができるわけではない、ということです。

年齢に応じた支援

乳幼児期の支援

障害が重ければ重いほど、早期に発見される可能性が高くなります。
早期支援の場合は、子どもだけでなく、保護者支援(カウンセリングや支援方法の研修など)も、非常に重要です。
なぜなら、低年齢であれば保護者と過ごす時間が大半だからです。
また、早くからその子どもの発達に合わせた支援ができれば、彼らの発達の可能性は大きく広がります。

最も身近な保護者は、できないことや不安なことに目がいき、ネガティブな見立てを持ってしまいがちです。
支援者は、その保護者に対してできることや可能性を伝え、ポジティブな見立てを提供することが大切です。

学齢期の支援

学齢期で最も大切なことは、学級・学校選びです。
就労など、人生における長期的な視点も必要な時期です。

【インクルージョン】という考え方が日本でも浸透してきました。
その理念は、【障害のあるなしにかかわらず、1人ひとりのニーズに合わせた教育・社会を目指す】ことです。
今後、通常学級、特別支援学級、特別支援学校のシームレス化(往来が自由にできるように壁がなくなること)が目指されることでしょう。
そして、本人の認知発達に合わせた課題を一歩ずつ進めていくこと(スモールステップ)が大切です。

青年期の支援

「知的発達症だから何もできない」ということではありません。
「どのような支援があれば、何ができるか」考えるといったポジティブな視点が大事です。

そのためにも、生涯発達支援が必要です。
例えば、余暇活動の充実です。
余暇活動でお金を使い、お金の意味を知ります。
そして、「お金のために仕事をする、働く」といったことを理解できるようにしていきます。

まとめ

「わかること」「できること」は、厳しく教え込むことで増やせるものではありません。
知的発達症の特性を知り、そのうえで、必要としているかかわり方や支援を続けていくことが大切です。

家族だけでは解決しにくいことも多いと思いますので、
知識をもった支援者を頼り、助言をもらいながら適切な療育を行うことで発達を促してみてください。

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<参考文献>
知的障害/発達障害のある子の育て方 徳田克己・水野智美監修 講談社
基本から理解したい人のための子どもの発達障害と支援のしかたがわかる本 西永堅 日本実業出版社
介護福祉ハンドブック知的障害児・者の生活と援助-支援者へのアドバイス- 一番ヶ瀬康子監修 一橋出版

Profile
小林努
ライター | Website

元児童養護施設職員
NPO法人Villageにて、さいたま市で放課後等デイサービスジャンプと居宅介護こびっとの統括をしています。
私なりの新しい養育ビジョン。
①発達障害が原因の児童虐待を防ぐ
②児童養護施設入所児童に療育を

Profile
運営者/編集者/ライター at 株式会社みのりの森

株式会社みのりの森 代表取締役
NPO法人Reframe 代表理事
凸凹じぶんなび とことこ 製作者/運営者/編集長/ライター
発達障がい専門誌きらり。 発行者/編集長/ライター
発達障害(ASD/ADHD)当事者
双極性障害当事者
発達障害の支援を中心に、会社を経営。
NPOでは不登校、発達障害、HSPなどの生きづらさを抱えた子どもと若者の居場所づくりをしている。

Profile
山田実穂
編集者

2002年より15年間、芸術系の出版社に勤続し、後半は編集長を務める。
2007年、過労よりパニック障害とうつ状態を発症。
2018年、それらの症状がADHD(注意欠如・多動症)ではないかと疑い、グレーゾーンの診断を受ける。
現在はフリーランスの編集者・ライター。

Profile
早島禎幸

兵庫県西宮市にある子どものこころと体の健康を守るクリニックの院長。
発達相談もできる。

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