限局性学習症(SLD)とは?
限局性学習症(SLD=英語でのSpecific learning disorder)とは、以前は学習障害(LD)ともよばれていた発達障害のひとつです。
全般的に知的な遅れは見られず、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する/推論する」能力のうち、特定のものに困難さが見られます。
このうちの一つについて困難さがある場合や、複数を併せ持つ場合もあります。
その程度についてもさまざまです。
SLDの原因は?
発達障害は先天的に脳の一部の機能に障害があることが原因とされており、SLDに関しても中枢神経系の何らかの機能障害によるものと考えられています。
感覚器官を通して入って来る情報を受け止め、整理し、関係づけ、表出する過程のどこかで中枢神経が機能していないとされていますが、まだ医学的に解明されていない部分も多いのが現状です。
しかし、これらの原因は成育歴や環境によるものではありませんし、本人の好みや意欲の欠如に起因するものでもありません。
SLDの診断方法と診断基準
SLDの診断では、中枢神経系の器質的(身体の器官のどこかが物質的、物理的に特定できる状態にあること)疾患の有無を医学的に評価する必要があります。
そのためには、発達歴や既往歴の確認が必要になります。
また、頭部画像検査や心理学的検査による資格認知機能や音韻認識機能の確認が必要になる場合もあります。
いずれも医師による診断が必要です。
SLDの3つの特性
①読字障害(ディスレクシア)
文字を読むことに困難さがある状態を読字障害(ディスレクシア)といいます。
文章を音読するととぎれとぎれになってしまったり、特定の平仮名の区別が難しかったりします。
読むことに困難さがあると、書くことにも難しさが出てくることがあるので、「読み書き障害」と呼ばれる場合もあります
- 意味で区切ることができず、1文字ずつ読む
- 文字や行を飛ばして読む
- 拗音(ゃゅょ)、促音(っ)など特殊音節を発音できない など
②書字表出障害(ディスグラフィア)
文字を書くことに困難さがある状態を書字表出障害と言います。
文字を書くことができなかったり、写し書きが苦手だったりします。
マスや行から大きく文字がはみ出てしまうことも。
- 形の似た文字や漢字を書き間違う
- 文字の大きさがバラバラ
- マスや罫線からはみ出す など
③算数障害(ディスカリキュリア)
数の理解や数の扱い方の学習、計算、考えて答えにたどり着くことに困難さがある状態を算数障害(ディスカリキュリア)と言います。
数字や記号を認識すること自体に困難さがあるために計算が難しくなってしまったり、数の大小を理解することが難しかったりします。
- 指を使わないと計算できない
- 位取りを間違う
- 文章問題が解けない など
SLDの背景と対応策
適切なサポートを行うためにも、その人の苦手なことが、どんな障害特性からきているのかを正しく知る必要があります。
具体例と対応策をご紹介します。
ビジョントレーニング
「追視(眼球運動につまずきがあるため、文字を目で追うこと)」が難しく、眼のピントを合わせづらかったり、何度も同じ行を読んだり読み飛ばしたりするといった場合、「ビジョントレーニング」が対策として挙げられます。
ビジョントレーニングとは、目の見るチカラ「視覚機能」を高めるためのトレーニングで、アメリカで開発されてきたトレーニング方法です。
眼球を動かす筋肉、眼筋を鍛えます。
バランスの悪い文字を書いたり、鏡文字を書いたりする場合には、左右・上下の位置関係を認知する力が弱いと考えられます。
線をなぞって練習しよう
まっすぐに線が書けない、文字が揺らいでしまうなどで困っている場合は、
線をなぞったり真っ直ぐ絵を描いたりする練習が効果的です。
テキストなどは真横においてみよう
直前に聞いた話や文字の再現に困難な場合は、ワーキングメモリ(一時的な記憶)に弱さがあると考えられます。
話を録音して聞き返す、書き写すものを真横に置いて随時確認しながら写すことが有効です。
言語聴覚士のトレーニング
似た言葉が聞き分けられない、拗音・促音に聞き落としがある場合は、音を聞き分けることに苦手さがあると考えられます。
有効な対策に、言語視聴士によるトレーニングがあげられます。
ただし、正確さを求めすぎず、話すことが好きになるように見守ることも大切です。
特性に合わせた具体的な工夫例
SLDは知的な遅れが見られないため、就学後に困難さに気付くということが多いようです。
平成28(2016)年に障害者差別解消法が施行され、学校でも合理的配慮の提供が義務となりました。
それにより、音声を読み上げる機能や文字を読み取りやすくしてあるデジタル教科書などICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)を活用したり、計算機を活用したりするなど、困難さが最も目立ってくると言われる学齢期にも取り入れられる環境が徐々に整ってきています。
とはいえ、まだまだ合理的配慮をすっと受け入れてくれる学校は少ないようです。
学校側とよく話し合い、本人の持つ困難さと有効な対策や工夫を共有することで、必要な支援を受けられる環境を作りましょう。
下記に具体的な工夫例をご紹介いたします。
文章を読むのが苦手
- できるだけ読みやすい縦書きのレイアウトで対応する
- 今どこを呼んでいるのか確認できるように、カラーセロファンなどで工夫されたスケールを使う
- 漢字とひらがなを織り交ぜることで、意味の区切れをわかりやすくする
- UD(ユニバーサルデザイン)書体/ユニバーサルデザインを活用する など
文章を書くのが苦手
- カラーマスノートを使う
- 作文は主要な部分を穴抜きにしたワークシートを活用する など
計算するのが苦手
- 簡単な計算でもひっ算を使う
- 計算機を活用する
- 文章問題を穴抜きにする など
自己肯定感を保つ大切さ
これらの困難さは障害によるものであり、本人の努力や練習が足りないというわけではありません。
できないことをできるようにするために訓練を強いることは、本人の自己肯定感を低めることにつながってしまいます。
周囲の理解を得ながら、一人ひとりの症状に合った工夫を見つけていくことが大切です。
ハリウッドスターのトム・クルーズはディスレクシアを公表していますが、脚本は録音から耳で覚えているそうです。
自分に合った工夫を見つけることで、才能を生かし、活躍することも可能であるということを彼は実証してくれているように思います。
できないことを本人の否定につなげるのではなく、工夫と「できる」部分を伸ばすことで生きづらさが軽減されるように考えていきたいですね。
<参考URL>
文部科学省HP
厚生労働省HP
LITALICO発達ナビHP
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