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社会的コミュニケーション症(SCD)とは?

社会的コミュニケーション症(Social Communication Disorder) とは、
「基礎的な会話能力は十分にあるにもかかわらず、社会的状況に応じた適切なコミュニケーションが困難なこと」を抱える障害です。

例えば、これらのようなことが難しいことが多いです。
× 相手の気持ちに配慮した会話
× 状況に応じて適切な相槌(あいづち)
× 比喩(ひゆ)やユーモアの理解
× 場にあった会話 など

自閉スペクトラム症(ASD)とのちがい

自閉スペクトラム症(ASD)もコミュニケーションに困難がある障害です。
しかし、この「社会的コミュニケーション症」とは異なる点があります。

自閉スペクトラム症(ASD)の主要症状は、以下の2つです。
・社会的コミュニケーションにおける困難
・限局された行動・興味の領域

社会的コミュニケーション症は、
上記のうち「社会的コミュニケーションにおける困難」を抱えており、
もう1つの「限局された行動・興味の領域」がない場合に適用されます。

ちなみに「限局された行動・興味の領域」とは、以下のようなものを指します。
・同じ行動を繰り返すこと
・変化に対する極度の苦痛
・極めて限定された興味
・感覚刺激に関する異常な反応

DMS−5での新しい診断分類

社会的コミュニケーション症は、
DSM-5(2013年改定版)で新たに設けられた診断分類の一つです。

「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」は、
米国精神医学会が編集しているさまざまな精神疾患や発達障害に関する診断基準です。
日本はもちろん、世界的に広く使用されているものです。
最新のものは2013年に英語版、2014年に日本語版が改定されています。
この改定時に、「発達障害」は「神経発達症(神経発達障害)」というカテゴリーに変更になり、
「アスペルガー症候群」などいくつかの診断名が廃止になりました。

どんな困りごとがあるの?

社会的コミュニケーション症の方は、
言葉や身振りを使ったコミュニケーションの際に継続的な困難さを抱えています。
それでは、具体的に、どのような困りごとがあるでしょうか。

1.あいさつなどの、基本的な会話をスムーズに行うことが苦手

あいさつなどの簡単な会話のやり取りをスムーズに行うことが困難に感じます。
挨拶はコミュニケーションの基本になります。
挨拶がうまく出来ないことで、「常識がない」などとマイナスの印象を与えてしまう場合があります。

  • 相槌を打つタイミングが掴めない
  • 不自然なタイミングで挨拶をしてしまう
  • 天気の話など当たり障りのない会話をすることが苦手 など

2.話し相手や状況に応じたコミュニケーションが苦手

言葉の意味そのものは理解していても、話し相手やその時の状況に合わせて、柔軟にコミュニケーション方法を変化させることが苦手です。
どのような相手にも同じような話し方をしてしまうと、「馴れ馴れしい」など、相手に違和感を感じさせる場合があります。
そのことで、人間関係のトラブルにつながったり、叱られる体験を積み重ねたりするかもしれません。

  • 遊び場と教室とで喋り方を変える
  • プライベートと仕事で喋り方や話す内容を変える
  • 会話の相手が大人か子どもかで話し方を変える
  • 公共機関などでは声のボリュームを調整する

3.抽象的な言葉の理解が苦手

相手の言いたいことを推測すること、会話の文脈を理解することが苦手です。
例えば、「子供の様子を見ておいて」と言われた際に、子供が泣き出してもあやしたりせず、様子をただ見ているといったことです。
日常会話では直接的な表現よりも、相手を傷つけないために、主張しすぎないために、遠回りな表現が多く使用されます。
抽象的な言葉の理解が苦手なため、周囲とコミュニケーションが上手に取れず、人間関係に影響が生じることがあります。

  • お世辞や社交辞令をそのまま受け取ってしまう
  • 慣用句やユーモアを字義通りに受け取り理解しづらい
  • 言葉の後ろに隠された相手の気持ちや思いに気づきにくい
  • たとえ話や曖昧な表現だと理解できない
  • 相手の表情の変化や身振りや行動の変化から気持ちを思いを察しづらい
  • 直接的な表現を使うことで相手を傷つけてしまう
  • 遠回しな表現を使わないことで、自己主張が強い人だと誤解されてしまう

4.コミュニケーションのルールに従うことが苦手

コミュニケーションにおける暗黙のルールに気づき、ルールに従うことが苦手です。
暗黙のルールに気づかず、不適切な表現やコミュニケーションを続けてしまうことで、「空気が読めない」「会話しづらい」と人間関係に影響が出てしまうことがあります。

  • 相手の話を聞かずに自分の話ばかりしてしまう
  • 交互に会話ができるように話す順番に気を配る
  • 相手の表情の変化に気づかず、同じ話を何度もしてしまう
  • 相手が理解していないのにどんどん話を進めてしまう
  • 相手の話すテンポに合わせずに自分のペースで進めてしまう
  • 誤解されたときに表現を言い換えたり丁寧に説明をする

社会的コミュニケーション症の診断を受けるには?

上記の困りごとによって、人間関係や学校の成績、仕事をやる際に支障が出ている場合は、専門医に相談してみましょう。
自閉スペクトラム症(ASD)など他の精神疾患ではうまく説明されない場合に「社会的コミュニケーション症」と診断を受ける可能性があります。
もちろん、診断できるのは医師になります。
自己判断はせずに、気になる場合は必ず精神科・心療内科などを受診しましょう。

社会的コミュニケーション症の改善方法

社会的コミュニケーション症の方は、周囲との社会的交流の機会が増える年齢まで本人や周囲も気づかない場合があります。
また、個人差が大きく、どのようなことに、どの程度困難を抱えているか様々です。
そのため、自分に合った改善方法を見つけることが大切です。

児童期〜学童期の方

心身の成長とともに困難さが軽減する場合も多いです。

  • 人と関わることで自然と対人スキルを獲得すること
  • 様々な状況を経験することでその場に合ったコミュニケーションを知ること
  • 療育などで様々なコミュニケーションスキルを身に着けること

成人期の方

成人期を過ぎても困難が持続する方もいます。その場合は以下のような対処方法が考えられます。

  • ソーシャルスキルの獲得
  • 専門医に相談すること
  • カウンセリングを利用すること

相談する際は、下記のようなことで自己理解を深めることもコミュニケーションの改善に有効です。

  • 自分のコミュニケーションパターン
  • 苦手な場面と得意な場面
  • どのような対人関係につまずくのか

コミュニケーション上の失敗や人間関係のトラブルを避けるために、社会的なつながりを避けてしまう場合は、下記のことも必要となってくるでしょう。

  • 自信を高めること
  • 成功体験を増やすこと
  • 周囲のサポートを増やすこと
  • 行動パターンを変えること

家庭や職場でできること

発達障害の方の困りごとは、「特性」と「環境」との相互作用により生まれるものです。
「特性」に対してソーシャルスキルなどを身につけて対処することもできれば、「環境」自体にアプローチすることもできます。
「環境」にアプローチする方法は、「環境調整」と呼ばれています。

環境調整をやってみよう

  • LINEなど言葉以外のコミュニケーションを増やす
  • 視覚的な手がかりを使用すること
  • 場面の理解や見通しを持てるような配慮をする
  • 抽象的な言葉は使用しない
  • 周囲からの関わりを工夫する
  • 日常場面での不要な刺激を減らす

安心感のある人間関係、環境づくり

コミュニケーションが促進するためには、「安心・安全」だと感じられる環境が大切です。
そのために、以下のようにサポートを増やすことも改善のポイントとなるでしょう。

  • 否定的な言葉を減らすこと
  • 暖かい言葉かけを心がけること
  • 人や関係機関と繋がる機会を増やすこと
  • 相談できる相手を見つけること
  • 居場所を見つけること

二次障害に気をつけよう

二次障害とは、元々の障害による困難やストレスをきっかけに二次的に別の障害を抱えてしまうことです。
たとえば、社会的コミュニケーション症の方が、うつ病になったり、不安症、依存症になったりすることがあります。
社会的コミュニケーション症の特性によって失敗体験や叱られる体験などが積み重なると…

  • 対人関係の悪化
  • 周囲からの理解やサポートの少なさ
  • 自己肯定感の低下
  • 自信のなさ

などにつながります。
そういったストレス状況により、別の精神疾患を患い、辛さが増加してしまうことが多いのです。
中には、二次障害になって初めて精神科を受診し、社会的コミュニケーション症が発覚する方もいらっしゃいます。

二次障害を抱える場合は、症状に応じた治療を進める必要があります。
まずは、専門医の先生の指示に従い、強い症状を軽減し、心身の安定を目指します。
ある程度安定した段階で、社会的コミュニケーション症の特性について理解を進めていきます。
再発防止のためにも、特性への理解と対処方法を検討していきましょう。

 

<参考>
DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引
Profile
石上友梨
ライター

臨床心理士/公認心理師
大学・大学院と心理学を学び警視庁に入庁。職員のメンタルヘルス管理、心理相談などを経験。身体にアプローチする方法を取り入れるため、インド・ネパールでヨガや瞑想を学び、全米ヨガアライアンス200取得。専門は発達障害と愛着関係。
現在は精神科クリニックにて認知行動療法をベースとした心理カウンセリング等を行いながら、福祉施設や小中学校など児童から成人まで幅広い年代の方の支援を行なっている。また、アプリの監修、企業へのコンサルテーション、セミナーやヨガ講師、書籍や記事の執筆など、活動の幅を広げている。

Profile
山田実穂
編集者

2002年より15年間、芸術系の出版社に勤続し、後半は編集長を務める。
2007年、過労よりパニック障害とうつ状態を発症。
2018年、それらの症状がADHD(注意欠如・多動症)ではないかと疑い、グレーゾーンの診断を受ける。
現在はフリーランスの編集者・ライター。

Profile
角田智哉
監修者 at 福島県立矢吹病院 副院長

医師/精神保健指定医/精神神経学会専門医・認定医/てんかん学会専門医/臨床神経生理学会脳波専門医/日本医師会認定産業医/臨床心理士
現在は児童を中心に診察しています。主に、親子関係の交流に焦点を中心に対応しCAREやPCITなどを施行しています。児童中心のクリニックを開設予定。

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