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就労移行支援って、どんなもの?

就職活動ってたいへんですよね……

突然ですが、就職活動ってたいへんですよね。
ハローワークや求人サイトでいろいろな会社のことを調べて、履歴書と職務経歴書を書いて、希望の会社にエントリーして、面接の連絡が来るかどうか、はらはらしながら毎日を過ごす。
書類選考で不採用になったらがっかりしますが、選考を通過し、面接の日時が決まっても、それはそれで心配事はつきません。
緊張してうまく話せなかったらどうしよう、とか当日寝過ごして面接に遅刻したら……などなど。
いろいろなことが気になってしまいます。
就職活動のひとつひとつのステップというのは、率直に言って面倒くさいことの連続です。
それに、就職までの時期が長引いてしまい無給期間が続くと、お金の面での不安がどんどん大きくなってしまいます。

この、いろいろと面倒くさい就職活動は……

  • 課題や活動を順序立てることがむずかしい
  • 精神的努力の持続を要する課題を避ける、いやいや行う
  • 日々の活動の中で忘れっぽい

引用元:NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター

……といった発達障害の特性が強い方にとっては、輪をかけて苦行です。

自分の働く会社を決定するという、重要な活動ではあるのですが、ついつい手抜きしてしまったり、後回しにしてしまったり。
気づけばぜんぜん内定が出ず、失業手当も貯金もピンチ!というケースに陥ってしまう。
これ、「発達障害あるある」です。

ADHDな私の半生

ちなみにADHD(注意欠如・多動症)要素がてんこ盛りの筆者は、自分の将来の進路を決めるのが全くの苦手。
高校卒業の際には就職するか大学に進学するかを決められず、担任の先生とは不仲で、3年時には登校拒否をしておりました。
卒業後、予備校生として勉強を再開したのですが、1年以上勉強をしていなかったので、講義の内容が理解できず、すぐ逃げ出してしまう始末。
けっきょく18歳から21歳まで3年ほどフリーターをしてから、入学試験のない、映画の専門学校に入りました。
専門学校卒業後に上京して映像制作系の仕事をしていたのですが、ここでもADHDの本領を発揮。
仕事に飽きたり、上司とのケンカを繰り返して会社を辞めたりといった態で、3年以上同じ職場にいたことはありません。
20代~30代なかばまで、9社ほど会社を転々としました。
なかには、自分の仕事ぶりを評価してくれて、ヘッドハンティングしてくれた会社もありますが、それは例外。
大半の転職活動は、履歴書を書いて、求人にエントリーして、といった面倒くさい段取りのくり返しでした。
そして、面接では「なんでこんなに転職回数が多いの?」「ほんとうにこの会社で長く働く気があるの?」といった質問の集中砲火。
このころは自分がADHDであるということに気づいていなかったので、障害特性を伝える、ということなど頭の片隅にもありません。

どうして自分は仕事が長続きしないのか。
その答えの一因は、ADHDという特性にあるのかも、という認識に至ったのは、さんざん会社を転職し、30代の半ばを過ぎた後だったのです。

以上の例は、筆者の体験談です。
今にして思うのは、「発達障害の特性には早めに気づいたほうがよい」ということ。
特性として理解できれば、一気に楽になります。
自分でもなんだかわからない、暗闇のなかでやみくもに進むつらさが、特性に対する付き合い方、という比較的目的の定まった状態へと変化。
勉強や仕事の進め方、人間関係などの問題に取り組むさいの方向性が見えてきます。

「就労移行支援」という福祉サービス

障害を持っている人は、障害者総合支援法で定められた、国の支援制度を利用することができます。
そのひとつが「就労移行支援」。
職場を転々としていた当時の筆者が、この福祉サービスを知っていれば、もう少し楽に就職活動を行い、かつ、少しでも長く、入社した会社にとどまることができたのではないかと思います。

就労移行支援とは、一般企業への就職を目標に、就職に必要な知識やスキル向上のためのサポートが受けられるサービスです。
厚生労働省のHPに詳しく説明されていますので、参考にするとよいでしょう。

就労移行支援を利用するためには、その人が企業など通常の事業所への就労を希望している、ということが前提です。そのうえで各種障害者手帳のいずれか、もしくは医師から意見書が必要です。
(市区町村の判断により、それ以外の人でも例外的に利用できる場合もあります。)
就労移行支援を行う事業所は全国におよそ3500か所あります。
それぞれに特色があるのですが、大まかなイメージでいうと、フリースクールに近いでしょうか。
就職を目指す人々がそれぞれの課題に取り組んだり、グループワークをしたり、事業所の企画したプログラムに参加したりして過ごしています。

私が勤務している「ソース堺東」の事業所の写真です。

就労移行支援事業所が利用者の方に提供するサービスは、以下の4つに大別されます。

  1. 生産活動、職場体験等の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練
  2. 求職活動に関する支援
  3. その適正に応じた職場の開拓
  4. 就職後における職場への定着のために必要な相談等の支援

けっきょくなにを支援してくれるの?

上記の厚生労働省の文章は堅苦しく、なかなか具体的なイメージがわきませんので、詳しく説明をしていきます。

まず、①に書かれている「生産活動、職場体験等の活動の機会の提供」とは、就労移行支援事業所を介して、さまざまな仕事を体験できる、ということです。
具体的には、レストランの調理補助の業務や、スーパーマーケットのバックヤードでの業務、施設の来客業務などが挙げられます。
このような仕事体験によって、実際に自分が就労したさいのイメージが明瞭になり、また業務を行う上で、自分の長所、短所を把握することもできるでしょう。
どこの職場に体験に行くかは、利用者の方の意思しだいですので、飲食業に興味のない方にレストランのお仕事体験を勧める、ということはありません。
少々変わったところでは、グラフィックデザイナーのお仕事に興味を持っていた利用者さんを、デザイン会社のお仕事体験へお連れしたことがあります。
画像編集アプリである「Photoshop」を使って、画面レイアウトの方法をデザイナーさんに教えてもらいました。
また、体験に行った職場で、社員の方に気に入ってもらって、めでたく採用された、というケースもあります。
そこまでうまく運べば万々歳ですが、就職に向けて、その人が必要とする有益な経験を積むことが基本的な目的です。

また、「その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練」というのは、PC(パソコン)操作のスキルアップや、軽作業の訓練などのことを指します。
事務職を希望される方はもちろん、多くの仕事においてPCを扱う機会が増えています。
一般的な就労移行支援事業所であれば、利用者の方ひとりひとりが個別にPCを使える環境が整っています。
PCの基本的な使い方、およびWord(文章を書くためのソフト)、Excel(計算をしたり、表を作ったりするためのソフト)、PowerPoint(会議などの資料を作るためのソフト)等の操作を学ぶことができるかと思います。
そのための参考書も整備され、PCの知識がある支援員もいるので、わからないところはサポートを受けながら学習を進めることができます。

特定の技能に特化した事業所も

事業所によっては、Photoshop(画像の色味を調整したり合成処理をしたりするソフト)やIllustrator(イラストやロゴを描くソフト)、InDesign(冊子やカタログといった印刷物を作るためのソフト)といったクリエイターやエディター向けのソフト、WordpressやDreamweaver(ともにインターネットでホームページやブログを作るためのソフト)といったWEB系のソフト、はたまたコンピューターのプログラミングを学習できるところもあります。
利用の際にはどういったソフトの操作が学べるのか、聞いてみるとよいでしょう。
とくにプログラミングは小学校でも必修化され、今後プログラミングを用いた仕事が増えてくるかもしれません。
ですので、プログラミング学習に特化した就労移行支援事業所も増えています。

上記の職場体験と同じく、就労移行支援事業所のスタッフが、そこに通う利用者の方個人個人の希望職種、ニーズをくみ取り、どういった学習をするのか提案を行います。
もちろんスタッフが提案したプログラム以外にも、取り組みたいものや資格取得の目標があれば、それについての学習を事業所内で行っても構いません。

私の勤務している事業所では、Microsoft Office Specialistや、ICTプロフィシエンシー検定試験の資格を取得する方が多いです。
Microsoft Office Specialistは「MOS(モス)」とも呼ばれ、上記のWordやExcelの技能を証明する資格で、事務職を目指す方に資格取得をおすすめしています。
ICTプロフィシエンシー検定試験は、「P検」とも呼ばれ、コンピューターの基礎知識を有していることを証明できます。こちらも事務職やその他のデスクワークを志望する際に有利になります。

率直に言って、これらの資格が就職において絶大なアドバンテージをもたらしてくれるわけではありません。
ただし、就職活動へと向かっていく、はじめの一歩として、勉強する習慣をつけておくのは大きなメリットだと思います。
また、せっかくの機会ですので、今まで興味をもっていた資格にチャレンジするのもよいことかと思います。
色彩検定(色に関する知識や技能を問う検定試験)やPhotoshopクリエイター能力認定試験、Illustratorクリエイター能力認定試験などの資格もあります。
これらは、取得すればすぐにデザイナーやクリエイターになれるわけではありません。
しかし、最近、多くの会社で、社内でちょっとしたチラシや広告をつくれる人材が重宝されることがあるようです。
じつは私も、支援員の仕事の傍ら、「社内なんちゃってデザイナー」をやっていて、事業所のチラシをPhotoshop、Illustratorで作っています。
簡単なチラシや社内報を作れる事務スタッフというと、すこし就職に有利な状況もあるかと思います。

<参考>
各資格の公式サイト
Microsoft Office Specialist(MOS)公式サイト
ICTプロフィシエンシー検定試験(P検)公式サイト
色彩検定公式サイト
Photoshopクリエイター能力認定試験公式サイト
Illustratorクリエイター能力認定試験公式サイト

障害の特性を踏まえた就活サポート

つぎに、②「求職活動に関する支援」です。
これはハローワークやインターネット求人サイトの使い方、求人検索の方法、また、求人票の見方や、エントリーの方法など、就職活動におけるさまざまな段取りを、二人三脚でレクチャーする、ということです。
ひとりでやると分からないことだらけで、とてもはん雑な作業なのですが、支援員のサポートがあれば、スムーズに進むと思います。

また、履歴書、職務経歴書の書き方についても、アドバイスを受けることができます。
とくに障害を持っている方の就労においては、その障害に対して、雇用する側がどういったサポート、配慮をおこなう必要があるか、具体的に説明することが肝心です。
発達障害であれば、たとえば「環境音の少ない静かな場所で業務をしたい」とか「ひとつのことに集中しすぎて他の業務を忘れてしまうので、随時確認をしてほしい」といった、合理的なレベルでの配慮があると働きやすいですよね?
それらの希望がきちんと企業側に伝わっていて、サポートを行う環境を整えてもらえる、ということが、とても大切です。
そのあたりの要望を、どのように企業に伝えるか、経験豊富な就労移行支援員のアドバイスは大いに役に立つでしょう。

かつ、就職活動を目指している当事者の視点では、なかなか見えづらいこともたくさんあります。
たとえば仕事の適性。仕事を選ぶ際に、どういった業種、職種を選べばいいのか、分からないことは多々あります。
そういった際に、支援員に助言を求めれば客観的に適性がありそうな職業をリサーチしてくれることかと思います。
こういったばあい、自分の今まで知らなかった職種や仕事の内容に、自分の能力がマッチする可能性がある、という発見をすることがあります。
ですので、「どんな仕事をしたらいいのかわからない!」と、なやんでいる方は、ぜひ、「私の向いていそうな職業はありますか」と、支援員に相談してみてください。

そして、支援員が提案してきた仕事の、職場見学や体験に行ってみるといいでしょう。
これが、③「その適正に応じた職場の開拓」として就労移行支援事業所が利用者の方に提供できるサポートです。
職業選択の幅が広がるのは良いことと思います。

就職後もフォローします

さらに、④「就職後における職場への定着のために必要な相談等の支援」というものがあります。
じつは、就労移行支援事業所の使命は、利用者の方に就職をしていただければそれで終了、というものではありません。
皆さんが、就職した職場でやりがいを持って就労を継続できるよう、手厚くサポートいたします。

具体的には、就職してから半年間のあいだ、定期面談の時間を設け、業務を問題なく習得できそうか、職場の雰囲気になじめそうか、などのヒアリングを行います。
もし困っていることがあれば解決にむけて一緒に考えます。
状況によっては支援員が職場にお邪魔して、管理職の方とご本人を交えての話し合いの場を設ける、といったことも、可能です。

また、半年の定着サポートを終えても、まだまだ支援を受けられる可能性があります。
就労移行支援事業所によっては、半年間の職場定着支援ののち、就労定着支援という、別の福祉サービスを実施しているところがあります。
これは、さらに最長で3年間、仕事を続けるためのサポートを行う、という、就労移行支援とは別のサービスです。
とはいえ、就労移行支援事業所が、就労定着支援サービスを兼任して行っていることが多いですので、同じスタッフが長期に渡って職場で長く働いてゆけるよう、支援を続けます。
利用を検討している事業所が、就労移行支援に引き続き、就労定着支援を実施してくれるかどうかも、聞いておいたほうがよいかと思います。

料金や注意点

このように、なにかと便利な就労移行支援事業所なのですが、
よく、「利用料金がどれくらいかかるのか?」という質問を受けます。
これに関しては、利用を検討している当事者の、前年度の収入が関係してきます。
もし、前年度に仕事をしておらず、収入が無い場合でしたら、無料で利用が可能です。
また、収入がある場合も、その額によって利用料金が決まりますので、これも就労移行支援事業所に問い合わせしてみることをお勧めします。

ここまで、就労移行支援の良い面を見てきましたが、注意点も多々あります。
まず、注意したいのが、就労移行支援という福祉サービスは、ハローワークとはちがい、職業をあっせんする機能は、基本的には備わっていません。
企業実習などで就労移行支援事業所と企業の間につながりがあるケースは多いですが、就労移行支援事業所に直接、求人が来るわけではありません。
そのため、就労移行支援事業所を利用しつつ、自分でもハローワークやインターネットの求人サイトで求人を探す必要があります。
もちろん、求人の探し方などのアドバイスは行いますし、ハローワークなどに出ている求人を一緒に調べたりすることもできます。
しかし就労移行支援事業所のスタッフが必ず理想的な就職先を見つけてくれる、というわけではありません。

参考資料
厚生労働省のサイト

就労移行支援というのは、障害をもった人々にとって、役立つ制度ですが、それを利用したからと言って必ずしも就職先が見つかる保証はありません。
就労移行支援事業所のなかには、企業や人材派遣会社、転職エージェントなどとの太いパイプを持っているところもあり、ひとりで仕事を探すよりも格段に就職活動の負担軽減ができるかと思います。
しかしながら、自分のやりたい仕事や待遇のよい仕事を探すのであれば、やはりその人じしんの就職に向けた努力が必要です。

また、就労移行支援事業所を利用できる期間は、原則的に2年までと定められていますので、時間を効率的に使う必要があります。
体調面や精神面の不安が大きく、就労に向けたスタートラインを迎えていないうちに就労移行支援を利用しても、いたずらに時間を空費してしまう懸念があります。
そのせいで本当に就労移行支援の手助けが必要なときになって、すでに利用期限を使い切っている、というケースも考えられます。
このあたりは主治医や自治体と相談し、就労移行支援を利用できる状態なのかどうか、一考してみるべきかと思います。

さまざまな特性を持つ人達との関わり

といったように、少々注意すべき点もありますが、活用できる方は就労移行支援事業所の利用をぜひ検討してみてください。
支援員の私がとても重要だと感じていることを付け加えておきたいと思います。
それは、事業所に通うことで、さまざまな障害をもった人々との交流する機会が得られる、ということ。
就労移行支援事業所には発達障害だけでなく、精神、身体、知的の各種障害を持った方も来所して就職活動に励んでいます。
また、自分と同じような発達障害特性を持っている人ともふれあう機会があるでしょう。
ここでいろいろな特性をもった人たちと会話し、ともに過ごすことで得られるものは大きいです。

近年「ダイバーシティ」という、多彩な特性をもつ人材を積極的に活用しようという社会的な動向があります。
就労移行支援事業所で過ごしていれば、自分に似た特性を持つ人、まったく違う障害特性を持つ人、あるいは「健常者」とよばれる人との関わり合いが必然的に生まれてきます。
このような多様な特性を持っている人たちが集まっている空間で、「この人は自分と一緒で、こういうことが得意で、こういうのに困っているんだな」「この人の考えはまったくわからないな」「健常者と障害者って何がちがうのか」などといった気づきや、問いが絶えず生まれてくるのです。
その気づきや問いを絶えず感じながら、他の人との関係性を築いてゆくこと。
それは会社に入ってからのあなたを後押ししてくれる、有用なスキルとなるはずです。
就労にたいして共通の目標や悩みをもった人々との交流は、自分のモチベーションを高め、お互いに励ましあって、就職活動をやり遂げる力を与えてくれるでしょう。

ひとりで就職活動することがつらいと感じられる方がいたら、ぜひ、お近くの就労移行支援事業所に問い合わせてみてください。
もし、就労移行支援事業所をこれから使ってみたいと思っている方がいれば、下記の「障害者ドットコム」のような、就労移行支援事業所をはじめとした福祉サービスを検索できるWEBサイトが便利です。
ぜひご活用ください。

大阪で就労移行支援事業所を探している方は、私の勤務している「ソース堺東」にも足を運んでいただけると嬉しく存じます。

Profile
岩崎友寛

就労移行支援事業所「ソース堺東・三国ヶ丘」職業指導員。Photoshop、Illustrator、Excelなどの講座を担当しています。今までにした仕事は、アニメーション、CM、TV番組の制作。アイドルグループ販促イベントの運営、CD制作。展覧会の企画運営。Webライター、書店員などなど。多動強めのADHDです。

Profile
山田実穂
編集者

2002年より15年間、芸術系の出版社に勤続し、後半は編集長を務める。
2007年、過労よりパニック障害とうつ状態を発症。
2018年、それらの症状がADHD(注意欠如・多動症)ではないかと疑い、グレーゾーンの診断を受ける。
現在はフリーランスの編集者・ライター。

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