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場面緘黙(ばめんかんもく)とは?

皆さんの周りに「声を聞いたことないな」とか「話している姿を見たことがないな」という方はいらっしゃいますか?
そのすべての方が『場面緘黙』とは限りませんが、もしかしたらそうかもしれません。

今回は、聞いたことはあるけれど詳しく知らない!と思われているかもしれない『場面緘黙』について一緒に学んでいきましょう!

場面緘黙(ばめんかんもく)/選択性緘黙(せんたくせいかんもく)って?

場面緘黙とは、
ご家族などとは話せるけれど、社会に対する不安があるために特定の場所や状況・場面で話すことができなくなる障害です。
特に幼児期に発症しやすいと言われています。

性格によるものと思われがちで、
「大人しい子」と認識されたまま、生きづらさに気が付かれず幼少期を終えてしまう子も中にはいるかもしれないほど、意外と身近なものと言えるでしょう。

話せないの? 話さないの?

『選択性緘黙』という名称がついていることからも、自ら話さないことを望んでいると思われがちですが、
実は話さないのではなくて「話せない」のです。

原因の多くは、社会への不安があるために話すことをちゅうちょしてしまい、
そのまま話せなくなってしまうからと言われています。

有病率

2~5歳の子どもに多く発症しやすいと言われています。

欧米では同上の世代のうち0.7%、日本では0.2~0.5%が、この障害を抱えていると言われており、男児よりも女児に多く発症しやすいとされています。
一方で通常、発症が5歳未満、有病率は0.03~01%との報告もあります。

発症要因・リスク要因

脳の損傷や先天的異常などの器質障害ではなく、社交不安症・情緒障害の一つとして考えられる症状です。

例えば、「不安になりやすい」「緊張しやすい」といったもともとの気質、社会的・心理的な要因や転居・入園などの環境要因が発症を引き起こすと考えられています。
また、不安への耐性が整っていない時に症状が誘発されやすいとも言われます。

近年、専門家から注目されている点として、ご家族や親の過保護や過干渉な養育との関連、社会不安障害との遺伝的な類似があるそうです。
また、音をイメージする力が弱い音韻障害や、年齢に比例した言語学習能力に達していない表出性言語障害など言葉に対する苦手を持っているお子さんがなりやすいとも言われています。

チェック方法

場面緘黙は、情緒障害(じょうちょしょうがい)に含まれています。
前提として、知的障害や発達障害を発症している場合は、場面緘黙・選択性緘黙の対象から除外されます。

また、生育歴に「人見知り」がなかったり、ある出来事から突然話せなくなったりした場合、急性ストレス反応やASD(自閉スペクトラム症)の特性が関連している可能性が高いです。

それらを踏まえて、以下にあてはまると、場面緘黙・選択性緘黙の可能性があります。


  1. ほかの状況で話せていても、話すことが期待された特定の状況(例:幼稚園・学校)で話すことが一貫してできない。
  2. その症状により、学業・職業上などの成績、または対人的コミュニケーションに支障をきたしている。
  3. その症状の持続期間は、少なくとも1か月(入学時の最初の1か月だけに限定されない)以上である。
  4. 話すことが難しいことは、知識の不足や楽しさを知らないなどの経験不足によるものではない。
  5. その症状は、コミュニケーション症(小児期発症流暢症など)では説明することは難しく、また自閉スペクトラム症・統合失調症、他の精神疾患を患わっていたり、それらの疾患が原因でおきていることではない。

(DSM-5参考)


 

保護者が回答するSMQ-R(Selective Mutism questionnaire/場面緘黙質問票)を使って場面緘黙の症状の程度を把握することができます。

ほかにも、
0〜7歳児の発達段階(運動・探索・社会・生活習慣・言語)を養育者からの聞き取りから結果を整理し判断する津守式乳幼児精神発達診断検査やPARS(PARS-TR/親面接式自閉スペクトラム症判定尺度)で親御さんが子どもの状態を確認し、障害の判断材料とする方法もあります。

子ども自らが検査を受けるPTV-R(絵画語い発達検査)、DAM(グッドイナフ人物画知能検査)などで、子どもたちの様子を直接、把握することも可能です。

治療

適切な治療を行えば、症状の改善は可能であると言われています。
反対に、積極的な介入が行われなければ、症状が改善されず、成人後の社会的機能に悪影響を及ぼしかねません。

場面緘黙のはっきりとした要因はわかっておりませんが、先ほども記載したように、複数の要因が複合的に関連しあっていると言われています。(令和2年10月現在)

治療法としては、主に心理療法と薬物療法を行っていきます。

心理療法

発症年齢は未就学児が多いことから遊戯療法(ゆうぎりょうほう;プレイセラピー)や芸術療法(げいじゅつりょうほう)、行動療法を用いた心理的アプローチを多く活用しています。

特に遊戯療法は、身体を使った遊びを主体とすることで緊張状態の緩和にもつなげていくと言われています。
身体を使うという意味では、動作法(体の緊張を緩め、動作をコントロールする力を育てる手法)や筋弛緩法(リラクセーション法に含まれ、心身を緊張状態から緩めた状態に意図的に行い、体にその感覚を感じ取ってもらう手法)なども有効と言われています。

また、併発している他の障害の有無によっては、言語聴覚士が言葉のサポートを行う場合もあるようです。

薬物療法

場面緘黙そのものを治療するのではなく、不安を軽減させる効果のある薬を使用します。

何より早期発見と早期治療で適切かつ迅速に対処するのが望ましく、「不安」への自分なりの対処法を身に着けることが大切になってくると言われています。

児童期以降の場面緘黙

児童期以降の場合は、より「引っ込み思案」や「消極的」「人見知り」といった性格的なものとして捉えられてしまうケースが多いです。
その結果、周囲の注目を浴びやすくなる、いじめの対象となりやすいといったケースも見受けられ、うつ状態へと発展する場合もあると言われています。

特に、幼児期と比較して児童期・青年期・成人期はコミュニケーション能力がより重要視されるほか、他者とディスカッションを行う場面も出てくるかと思います。
そこで、自分自身の中では意見があったとしてもうまく表現できず、できなかったことを「自分のせい」と考えやすくなってしまう傾向があります。
そのため、「不安」や「緊張」にさいなまれるという共通点は幼児期と同じですが、大人は大人で苦労がたくさんあります。

本人や周囲にできること

現状、日本は欧米と比較して「場面緘黙」「選択性緘黙」の研究が少ないと言われています。
そのため、治療経過や支援方法は、これから分かってくるものも多いと思います。

場面緘黙の少女と4年間に渡り、面接した研究(伊藤・植木田,2014)では、以下のような過程を経て場面緘黙の子どもは変容していくという結果がでました。

安心できる環境づくり・基盤づくりの時期

文字を通した自己表現の時期

言語表出はないが、身近な人以外と文字でやりとりをし始める時期

そのような経過を経て、文字ではあるが楽しさを他者と共有するまでに至った少女の例が報告されています。

一番大切なのは「本人が安心のできる環境」ということです。
また、本人が「話したい気持ちがある」か「話したい気持ちがない」かによっても周囲の対応が変わるとも言われています。
しかし、多くの子どもは「話したい気持ちがある」を多く持ち合わせているけれど、不安の方が勝っている状態であることが多いそうです。

そこで大人は、子どもの「話したい気持ちがある」といった心の状態を後押しするような関わりが大切になると言われています。
無理に話させるのではなく、「話したい気持ちがある」ことを大切にし、本人が楽しいと思う・信頼できる・安心できるといった気持ちになるような関わりが必要です。

そのために有効なのは、肯定的な言葉かけ自信を持てるような小さな成功体験の積み重ねです。

小さな成功体験を積み重ねるためにも、その子の「好きなこと」や「楽しいと思えること」を周りが知っておくのがとても大切になると思います。

反対に、子どもたちと関わっていく上で行ってはいけないことは、下記のことです。

①発語の強制
②話せないことを責める・何度も問う
③そのままにしておく

まとめ

性格上の問題と捉えられがちで、見過ごされたまま本人がつらい思いを経験しやすく、どのように対応したらよいか、周りもわかりにくいのが場面緘黙です。
例え、場面緘黙ではないとしても、どんな症状や障害にも放っておいていいものはありません。
周囲が適切な介入をしながら「場面緘黙」「選択性緘黙」を理解し、本人が安心して過ごせるような手立てが増えると良いなと考えています。

きらり。11号にも掲載!場面緘黙のパティシエ「杉之原みずき」さん(現在、中学生)

滋賀県近江八幡市にある「みいちゃんのお菓子工房」の店長 杉之原みずきさんは場面緘黙の当事者です。
今は養護学校の中等部に進学されながら、お店でパティシエとして活動されています。
こちらの記事もよかったら読んでみてくださいね。

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<参考文献リスト>
かんもくネット
日本緘黙研究会
・緘黙児の自己表現の変容に関する一考察―母子分離不安への支援を通して― 伊藤由美・植木田潤 国立特別支援教育総合研究所研究紀要 第41巻 2014
・場面緘黙児の発話を促進するカウンセリング過程 (1) -小学校3年男子の介入例- 平田幹夫 琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要(9): 1-12 2012

Profile
池谷さき
ライター

臨床心理士
大学院卒業後、精神科病院、心療内科クリニック、児童発達支援事業所、放課後等デイサービス事業に勤務。
うつ病や双極性障害、不安障害の方のカウンセリングを経験。また、子どもから大人まで様々な発達障害の方の相談支援や心理検査を行ってきた。現在は療育の現場を中心に、オンライン含むカウンセリングや心理学系コラムの随筆、講師などの依頼も引き受けている。

Profile
山田実穂
編集者

2002年より15年間、芸術系の出版社に勤続し、後半は編集長を務める。
2007年、過労よりパニック障害とうつ状態を発症。
2018年、それらの症状がADHD(注意欠如・多動症)ではないかと疑い、グレーゾーンの診断を受ける。
現在はフリーランスの編集者・ライター。

Profile
角田智哉
監修者 at 福島県立矢吹病院 副院長

医師/精神保健指定医/精神神経学会専門医・認定医/てんかん学会専門医/臨床神経生理学会脳波専門医/日本医師会認定産業医/臨床心理士
現在は児童を中心に診察しています。主に、親子関係の交流に焦点を中心に対応しCAREやPCITなどを施行しています。児童中心のクリニックを開設予定。

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